電脳遊戯 第11話


ゲームの世界に囚われたルルーシュの環境はめまぐるしく変化していた。大半は即死級の罠と共に謎が用意されていて、それを解けば次へと移動される。
白い通路のように時間制限と、不鮮明な画像では判別しにくい謎で無ければ、ルルーシュを筆頭に頭の回転が速い者が揃っている為、謎を解くのは簡単だった。
洞窟内の壁一面に書かれた暗号と壁画を使った今回の謎も、ルルーシュは一目見るなりあっさりと解いてしまい、C.C.たちが内容を確認する暇がないほどであった。
そう、頭脳を使う作業であれば何も問題は無い。
問題は、体力の面だった。
基本プログラムをロイドに任せていたセシルは、ゲーム画面にはありふれた表示である体力ゲージを画面端に表示される事に成功した。
疲労度を示すそのゲージは、緑色がどのぐらいあるかで、ルルーシュの状態を判断できるというのだが、ルルーシュのメーターはほぼ真っ赤で、緑色のゲージなどスズメの涙程度しかなかった。

『俺は大丈夫だ!その表示に問題があるんだろう!』

本人はそうは怒鳴ったが、嘘だらけの王の言葉を信じる者などここにはいない。忠誠心がいくらあっても、ルルーシュの発言は全て本当だ!など誰も思わない。反対に疑ってかかるものだと認識している。

「なら検証してみればいい。ルルーシュ、今から1時間ほど休め」

言い合うだけ無駄だ、検証すれば早いとC.C.は指示を出し、ルルーシュは渋々ながら休憩を取ると、赤が減り緑が増えた。
精度がどのくらいかは解らないが、この嘘つき魔王の体調管理はこのゲージで行う事に決定し、こまめな休憩を入れるようになると、画面の外で見ても解るぐらいルルーシュの足取りが軽くなったため、やっぱり無理してたんじゃないか。と、皆嘆息した。
そんなこんなで朝の4時を回った頃、ルルーシュは難問にぶつかった。
そう、移動で減る体力や、謎はどうにでもなる。
だが、こういう物はどうしても賭けに出なければならない。

ルルーシュの命を狙う生物。
つまり”敵”が現れたのだ。

今までは凶暴な野生動物や、ロボット、ファンタジーな魔物など、いろいろ現れてきたが、どれも一様に動きが遅く、逃げ足の速さに定評のあるルルーシュはどうにか回避し続けた。
ゲームで言うシンボルエンカウントのようなもので、遭遇しなければ無害だったため、各場所に配置された敵の視線から身を隠し移動した。
それも一種のパズルだから、ルルーシュ達に負けは無い。
そう、今までは視界にルルーシュが入れば襲ってくるだけで、ルルーシュを常につけ狙うタイプではなかったのだ。
いまここにいる敵はルルーシュを探して歩き、所構わず攻撃を仕掛けてくる。
執拗に追いかけてくるその敵の姿に見おぼえがある。
というか、見覚えしかない。
成程、ルルーシュ皇帝の”敵”に誰を選ぶか考えれば、確かに納得できるのだが。

「馬鹿スザク!!こんな所でも邪魔をするな!!」

このイレギュラーが!!

『ええ!?僕のせいなの!?』

僕は悪くないよ!!
現在ルルーシュの唯一の騎士となった男は、自分は無実だと叫んだ。

”敵”は枢木スザク。
ナイトオブセブンだった頃のスザクだった。

ラウンズの映像はシャルルの関係者なら簡単に手に入る。パーソナルデータも、軍で保管されているあらゆるデータも、手にできるもの全て手に入れた製作者は、本人と見間違うほどのナイトオブセブンを作り出していた。
裏切りの騎士に裏切られて死ね。
作者の意図がよく解る作りだ。

『ルルーシュ、その先に扉がある。中に入れ』

幸いな事に、画面の外にいるC.C.達の声はこのゲーム内の”敵”には聞こえないらしい。あるいは聞こえていてもそれに対応できないのか。
ロイドとセシルはカメラの一つをルルーシュから切り離し、自在に動かす事に成功したため、C.C.がカメラで先回りをして、セブンの追跡を一時的にしのげる場所を探り、ルルーシュに伝えるという方法でどうにか凌いでいた。
とはいえ、セブンの動きは早く、何度も捕まりそうになりながらも、ルルーシュは機転を利かせ、執拗な攻撃をかわしC.C.が示す先へ逃げる。
言われた扉に飛び込み、施錠する。

『奥の扉を開いた後、机の下に隠れろ』

扉を蹴る音を聞きながら机の下に隠れたタイミングで、セブンは扉を蹴り開けた。本物なら1度で蹴り開けるような扉だが、あくまでもこれはゲーム。
かならず5回蹴ると決まっているらしい。
逃げ惑う皇帝を眺め、画面の向こうで酒でも飲みながら嘲笑うつもりだったのだろう。
1回で蹴り開けたらすぐつかまってしまう。
だから5回。
恐怖を与える意味も込めて。
だが、こちらとしては5回まで安全だという証でもある。
セブンは部屋を見回した後、机の下を調べることもなく奥の扉向こうに姿を消した。パタリと扉の閉まる音が聞こえると、再びC.C.の声が聞こえた。

『今入ってきた扉から外に出て先に進め』
「・・・っ、出口は解ったか?」
『まだだ』
「チッ、馬鹿スザクが!」
『だから、僕関係無いよね!』
「文句ぐらい言わせろ!!この馬鹿!」

幸い、ルルーシュの会話も相手には聞こえないのか反応を示さない。
だからこうして大きな声で文句を言えるのだ。
ルルーシュは重い体を引きずる様に部屋を後にした。

「ここまで来ると、ルルーシュの気力頼みだな」

C.C.は真剣な表情でそう呟いた。
視線は手元のモニターから動くこと無く、出口を必死に探している。
あのセブンの追跡を一時逃れる事は出来たが、あくまでも一時、だ。
すぐにまた見つかり追って来る。
セブンは本物同様にしつこかった。

「C.C.さん、陛下はそろそろ一度休憩して頂いた方が・・・」

みると、ゲージはほぼ真っ赤。
C.C.はちっと舌打ちをした。時間の経過と共にルルーシュのゲージの減りは早くなっていた。スタミナが切れて疲れやすくなっているのだ。もしかしたら現実と同じで水と食料をその体は必要としているのかもしれない。 ルルーシュが口を割らないため、そこは判断できないのだが。
セブンと出会ってからはゲージの減りは異常で、すぐにレッドゲージになった。
走る事も多いし、何より精神的な負荷が大きすぎるのだ。
スザクという存在は、ルルーシュにとって大切だった。
初めての友達であり、唯一の親友。
だが、それと同時に大きなトラウマでもある。
ルルーシュを幾度となく裏切った男。
ナナリーをその手で消しておきながら、ユーフェミアの仇を討つためルルーシュに剣を向ける愚か者。
その男が再びあの制服とマントを身に纏い追って来るのだ。
冷静になれと言っても無理な話だ。

「ルルーシュ、その先にあるロッカーに身を隠せ。そろそろ奴が来る時間だ」

このセブンは、ロッカーなどは基本調べない。隙間から覗く事もあるが、ロッカーを開けた事は無い。安全だからと籠城するわけにはいかないが、ルルーシュを休ませるにはうってつけだった。
あくまでもゲームとして製作されているため、救済処置があるのだろう。
ルルーシュは指示通りロッカーに入ると、内側からカギ部分をいじり、器用に鍵をかけた。そしてほっと息をついた後、どさりと腰を下ろす。
C.C.が選んだロッカーは横幅が広く、ルルーシュが足を延ばして座れるだけのスペースがあった。

「そこで暫く寝てろ。私は先を調べてくる」
『ああ、さっさと調べて来い』

投げやりのように言った後、ルルーシュは壁に背を預け、目を閉じた。疲労のピークが来ていたのだろう、そのまますぐに眠りについたようだった。
画面は最初のころに比べてかなり鮮明になったため、C.C.が見ている画面を壁の大型モニターに映し出し、スザク達も画面を食い入るように見つめて何かが無いか探した。
ルルーシュが囚われているのは大きな建物。
どの部屋も薄暗く、まるで研究室のような作りのそこは、どこもかしこも似た作りの部屋となっていて、また無限ループに囚われたのでは?と錯覚してしまうが、少なくとも、セブンが破壊した痕跡は無い為、ループはしていないはず・・・である。
ちらりとルルーシュが眠る姿に視線を移すと、いまだに真っ赤なゲージが目に入った。
ゲージの回復がいつもより遅いのは、それだけルルーシュに限界が来ているという証でもあった。

「ルルーシュが囚われたのは一昨日の朝8時。最初の謁見でだ。間もなく丸二日この中にいることになる」

C.C.はスザクの視線に気が付き、そう言った。

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